「火砕流が横浜まで届いたことのある山」と聞いて、どの山を思い浮かべるでしょうか。富士山ではありません。温泉と美術館の街、箱根です。
箱根山は2015年に実際に噴火した現役の活火山で、現在の噴火警戒レベルは1。ふだんは静かですが、約6万6千年前の大噴火では火砕流が現在の横浜方面まで達し、東京にも軽石が降り積もりました。
この記事では、箱根山が噴火したら何が起きるのかを、2015年噴火の実例、過去の巨大噴火の痕跡、そして2025年に改定された最新のハザードマップから読み解きます。
箱根山噴火の可能性は?現在の噴火警戒レベルと最新の活動
2026年7月時点で、箱根山の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意)です。気象庁が24時間体制で監視する「常時観測火山」のひとつで、地震計や傾斜計、監視カメラが山の呼吸を見張り続けています。
ただし、レベル1は安全宣言ではありません。箱根山には数年おきに地下がざわつく癖があります。
- 2015年:大涌谷でごく小規模な水蒸気噴火。警戒レベル3まで引き上げ
- 2019年:火山性地震が急増し、約5か月間レベル2に
- 2022年:地震活動の高まりが観測されるも、噴火には至らず
- 2025年7月:芦ノ湖周辺で群発地震。火山観測データに変化はなし
次の噴火が「いつ」かは、現代の科学でも予知できません。それでも2015年のケースでは、噴火の約2か月前から地震の増加や地殻変動が観測され、規制が噴火より先に動きました。箱根はざわつきが先に見えることの多い山だと言えます。
前兆をつかまえられた実績がある山、と考えると少し心強いですね。
箱根山噴火2015:観測史上初の「その日」に起きたこと

2015年6月29日の昼、大涌谷に灰が降りました。ごく小規模な水蒸気噴火。それでも、観測史上初めて箱根山の「噴火」が確認された日です。直径約150mの範囲に4つの火口が開きました。
流れを追うと、4月末ごろから火山性地震が増え、5月6日に警戒レベル2へ引き上げ、大涌谷は立入規制。そして6月29日に噴火し、翌30日にはレベル3、火口から半径約1kmに避難指示が出ました。噴火自体は7月1日には収まり、11月にはレベル1へ戻っています。
この噴火による死者・負傷者はゼロでした。前年2014年の御嶽山噴火で登山者58人が亡くなったのとは対照的です。運命を分けたのは事前の規制でした。大涌谷は、噴火の54日前にはすでに閉じられていたのです。
噴火より先に観光地を閉められていたことが、命を守ったのですね!
一方で、ロープウェイの運休や宿泊キャンセルなど観光への打撃は深刻でした。噴火の被害は、火口の中だけでは終わりません。
箱根山の噴火の過去:芦ノ湖も大涌谷も「噴火の置き土産」

芦ノ湖は、山がひとつ崩れてできた湖です。箱根の観光名所は、たどっていくとほぼすべて噴火の傷跡に行き着きます。
箱根火山は約40万年前から活動してきました。最大の事件が約6万6千年前のカルデラ大噴火です。火砕流は東は現在の横浜市保土ヶ谷区や三浦半島、西は沼津を越えて富士宮まで到達。推定ではわずか1〜2時間で横浜のあたりまで駆け抜けたと考えられています。噴き上げられた軽石は関東一円に降り、東京の山手や武蔵野台地では地下6〜7mに厚さ約20cmの層として残っています。その名も「東京軽石」。東京の地面の下に、箱根の噴火が埋まっているわけです。
約3000年前には、神山で大規模な水蒸気爆発と山体崩壊が起き、流れ下った土砂が川をせき止めて芦ノ湖が生まれました。大涌谷も、この時期の爆発でえぐられた火口の跡です。マグマを噴いた噴火としてはこれが最後ですが、その後も鎌倉時代の12〜13世紀に水蒸気噴火の記録があり、そして2015年へ続きます。
補足しますと、大涌谷の白い噴気は、地下に今も熱い火山システムが生きている証拠なのですよ。
箱根山が噴火したらどうなる?想定される被害

想定されている敵は3つ。大きな噴石、火砕流・火砕サージ、そして灰です。
最も起こりやすいのは、2015年型の「大涌谷周辺での水蒸気噴火」です。神奈川県などの避難計画が正面に据えているのは大きな噴石と火砕流・火砕サージで、どちらも発生から到達までの時間的猶予がほとんどない現象とされています。つまり、起きてから逃げるのはほぼ不可能。だからこそ事前の立入規制がすべてになります。御嶽山で犠牲の多くを生んだのも噴石の直撃でした。
降灰は風に乗って麓の街へ広がり、交通や観光、農業に影響します。では最悪のシナリオ、6万6千年前級のカルデラ噴火はどうか。あの規模なら首都圏まで射程に入りますが、頻度は数万年に1度のオーダーで、現在その兆候は観測されていません。怖がる順番を間違えないことが大切です。現実的なリスクはあくまで大涌谷周辺の小さな噴火で、隣の富士山の宝永噴火のような広域降灰とは、リスクの形が違います。
箱根山噴火の火砕流マップ(ハザードマップ)はここを見る
2025年3月、箱根山のハザードマップと避難計画が改定されました。箱根山火山防災協議会による見直しで、想定火口域は従来の楕円から「細長い小判型」へ。過去にどこから噴いたかを調べ直した成果が反映されています。
- 想定火口域:どこから噴く可能性があるか
- 大きな噴石の到達範囲:屋外で命に関わるエリア
- 火砕流・火砕サージの範囲:数分で到達しうるエリア
- 避難対象地域と避難先:レベルごとに誰がどこへ動くか
マップは箱根町の公式サイトで公開されています。旅行の前に一度眺めておくと、現地の看板や規制ロープの意味が変わって見えるはずです。ハザードマップは怖がるための地図ではありません。安心して遊ぶための地図です。
現代への教訓・防災への学び
箱根の2015年噴火は、日本の火山防災では数少ない「勝ち」の記録です。観測網が前兆を捉え、噴火の54日前に現場を閉じ、死者ゼロで乗り切りました。この成功は偶然ではなく、観測と規制という地味な仕組みの積み重ねでした。
旅行者にできる備えはシンプルです。出発前に気象庁の噴火警報・予報のページで警戒レベルを確認する。現地では規制ロープや看板を絶対に越えない。ニュースで「箱根で群発地震」と聞いたら、行程を変える柔軟さを持っておく。この3つで、リスクの大半は避けられます。
温泉も、黒たまごも、芦ノ湖の景色も、すべて同じ地下の熱が生み出したものです。恵みと危険は同じ蛇口から出ている。それが火山の国に住むということなのだと思います。
箱根山の噴火に関するよくある質問
箱根山はいつ噴火しますか?
時期を予知することはできません。ただし箱根山は気象庁の常時観測火山で、24時間監視されています。2026年7月時点の噴火警戒レベルは1です。訪れる前に気象庁の「噴火警報・予報」ページで最新のレベルを確認しましょう。
2022年に箱根山は噴火しましたか?
噴火していません。2022年には火山活動の高まりが観測されましたが、噴火には至りませんでした。直近の噴火は2015年6月の大涌谷でのごく小規模な水蒸気噴火です。
箱根山の最後の噴火はいつですか?
2015年6月29日の水蒸気噴火が最新です。マグマそのものを噴出した噴火は約3000年前で、このとき神山の山体崩壊によって芦ノ湖が生まれました。火山の寿命からすると、3000年は決して「昔」ではありません。
旅行中に噴火警戒レベルが上がったらどうすればいいですか?
規制区域には絶対に近づかず、宿泊施設や自治体の案内、公共交通の運行情報に従ってください。レベル2で火口周辺規制、レベル3で入山規制です。2015年もレベル3の段階で避難指示の対象は火口周辺に限られており、箱根全体が危険になったわけではありませんでした。
まとめ:箱根山と「知って遊ぶ」という備え
箱根山は2015年に実際に噴火した活火山で、現在の警戒レベルは1。現実的なリスクは大涌谷周辺での水蒸気噴火で、命を守る鍵は「事前の規制に従うこと」に尽きます。ハザードマップと避難計画は2025年3月に改定され、備えは今も更新され続けています。
次に大涌谷で黒たまごを食べるとき、足元から上がる白い噴気を少しだけ真剣に眺めてみてください。それが、この山がいまも生きている証拠です。
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